Walking, running and the evolution of short toes in humans
Rolian, C., Lieberman, D. E., Hamill, J., Scott, J. W., & Werbel, W. (2009).
Walking, running and the evolution of short toes in humans.
The Journal of Experimental Biology, 212(5), 713–721.
ヒトのつま先が短いのは二足で歩くため?それとも走るため?
偏相関があまり有意でないのに、重回帰分析で無理やり仮説を検証している感じがあるが、進化の過程を知り、つま先の形態の意味を考える上では面白かった。junkaneko.icon
要約
つま先の指の部分は、ヒトの体格に対して非常に短い。この足のプロポーションの派生は二足歩行に関連した文脈の中で進化したと考えられている。しかし、歩行および走行における短い足指の利点については、これまでに検証されていない。そこで、我々は、より短い足指が指屈筋力の産生と機械的仕事を減少させることで、移動のパフォーマンスを向上させること、そして最終的に二足歩行中の屈筋力産生の代謝コストが減少するかもしれないことを示唆する、二足歩行におけるつま先の機能のバイオメカニクス的モデルを提案する。我々は、つま先長が正常な範囲内のヒトサンプル(n=25)から収集した力と足圧データ運動学的な手法でこのモデルを検証した。ピーク指屈筋力、力積、仕事量におけるつま先長の影響について、体格、足部全体、足指の接地時間、toe-out角(歩行角)の影響をコントロールした偏相関と重回帰分析を用いて裸足歩行・ランニング中に評価された。我々の結果は、
歩行中、より長いつま先に関連した指屈筋出力の有意な増加がなかったことを示唆した。しかしながら、ランニングではサンプルに基づく重回帰分析で、わずか20%の平均相対つま先長の増加が、おそらく力産生に関わる代謝コストを増加させ、ピーク指屈筋の力積と機械的仕事を二倍にすることが示唆された。長いつま先に関連したランニング中の機械的コストの増加は、現人類の前足部の形状が長距離ランニングのための進化という文脈の中で選ばれた可能性を示唆している。
intro
ヒトは、唯一の二足霊長類として、足根骨と中足骨の骨格のapomorphiesだけでなく、足指の形状も独特な派生からなる、非常に適応した足部を有している。アウストラロピテクスのような他の猿人と比較して、人間の足指の外側は、体のサイズに対してとても短く、真っ直ぐである。そして、母趾は内転し、より強く、外側の指と同じくらいの長さである(Table1)。さらに、これらのapomorphiesは趾の運動がtransverse metatarso–phalangeal axisまわりの屈曲伸展に限られている、前足部の相対的・絶対的に短い指骨を生み出した。この独特な趾骨形態は地上での二足歩行のための機能的適応であると長い間考えられてきた。しかし、ヒトの歩行とランニングにおけるつま先の機能に関する研究はほとんどない。短いつま先がどの程度、二足歩行の利点となるかどうか検討していない。本研究では、短いつま先が歩行や、特にランニングの立脚期におけるパフォーマンスの利点を提供することを示唆する、二足歩行におけるつま先の機能に関するシンプルなバイオメカニクス的モデルを提案する。
具体的には、より短い指骨が、立脚期の関節安定性を維持するために使われる、指屈筋の機械的力と仕事量を減少させることで、移動のパフォーマンスを向上させるという仮説を検証するために、つま先長が正常な範囲内のヒトサンプルから収集した前足部の運動学的、動力学的データを用いる。
toe function during stance in bipedal locomotion
歩行の立脚期は3つに分けられる:接地期(0-25%)、足底面が地面に接地する時期;立脚中期(25-65%)、身体重心が立脚足の上を通過する時期;推進期(65-100%)、中足骨頭と指骨に伴って踵離地が起きる時期。推進期では、反対足は地面に接地し、両脚支持期と言われている。ランニングも、立脚期は3つに分けられる。:接地期(0-20%)、立脚中期(20-45%)、推進期(45-100%)、しかし両脚支持期は存在しない。立脚期の間、重力と体節の加速度によってもたらされる地面反力(GRFs)の変化は足底とつま先に適用される。つま先は接地期と推進期の大きな負荷には耐えられない。だが、推進期では、中足骨頭と末節骨は地面との唯一の接点であり、負荷に耐えられるように変化する。歩行中、つま先は体重の30-40%を支えている。そしてほとんどが第一、第二、第三末節骨である。ランニングでは、体重の50-75%にもなる。
身体を支えることと牽引を与えることに加え、つま先(特に指の屈筋群)は、推進期に置ける身体重心の前方への移動を助けている。推進期が始まると、足関節の底屈筋群と中足趾節(MTP)関節は、身体重心がこれらの前方へ移動することによって、受動的に伸展する。この時期に、’foward falling’の形として見られるように、身体は矢状面上で前方に投げ出される傾向がある。MTP関節において、末節骨に適用されるfoward fallingと地面反力負荷の複合的な影響は、これらの関節が伸展(hyperextension)に動き出す原因となる。しかしながら、筋電学的な研究は外在・内在の足指屈筋群は推進期の間、MTP関節に対する地面反力の伸展モーメントとバランスをとって、身体のforward fallingの制御に貢献するために、活動していることを示している。おそらく、伸張性収縮をしている屈筋群は、MTP関節の伸展の’ブレーキ’としての働きがある。立脚期の終わりに、特にランニングやスプリントで、屈筋群はより強力な挙上を生み出す足関節底屈筋群の活動もアシストするかもしれない。
the effects of longer toes on…
足指の骨格は、推進期の間、2つの重要な機能を提供している。:中足骨頭と末節骨はload bearing と牽引を提供する。ところが、指屈筋群はMTP関節を安定させ、身体重心の前方運動を制御している。これらの機能があるので、つま先長が移動のパフォーマンスに影響を及ぼすことが想像できる。つま先長が異なる以外は同一である二人の人物を挙げてみる(Fig.1)。二人は推進期に同じような地面反力波形を示す。つま先が長い人は大きなload-bearingエリアのために利益を得ないかもしれない。なぜなら、地面に対する通常の足の位置で、指骨の地面反力負荷は末節骨だけに適用されるからである。それと同時に、これらの負荷はMTP関節よりも先に適用されるので、より大きなMTP関節の伸展モーメントを生み出すことになる。
つま先部分の正味の角加速度が推進期の間、無視できると仮定して、MTP関節のネット関節モーメントはゼロになる。そして、より大きな地面反力による伸展モーメントはつま先の長い人のより大きな屈曲モーメントと釣り合う。これらの屈曲モーメントはつま先外側の短・長趾屈筋、短・長母趾屈筋、背側骨間筋、足底方形筋といった足指の屈筋群によって産生される。大雑把に筋のモーメントアームが同じだとすると、つま先の長い人はより大きな伸展モーメントと釣り合うために、より大きな屈曲筋力を発揮しなければならないので、立脚期の大きな力積につながる。屈筋群は余分な機械的仕事も生じ、パワーも発揮される。足指の屈筋群が収縮しているにも関わらず、MTP関節は伸展しているので、関節パワーと機械的仕事は、推進期の間ほとんどnegative(マイナス)になっていることに注意する。
Fig.1のモデルによると、長いつま先の人はより大きな足指屈筋力を発揮し、推進期の過伸展につながる運動からMTP関節を守るために多くの機械的仕事を生じることが予想される。その他は同じだとして、これらの筋群が伸張性収縮しているとしても、より大きな力発揮と機械的仕事は、つま先の長い人における足指の屈筋力産生の代謝コストも増加するだろう。言い換えればこのモデルは、MTP関節を安定させる機械的コストを減らし、足指の屈筋力産生の代謝コストも減らす、短いつま先が移動パフォーマンスの向上させることを予測している。
walking vs running
足指屈筋の出力の違いはつま先の長い人が二足での移動に不利であることを示唆する。この不利な点は2つの理由により、ランニングで著しく増加する。第一に、持久走のスピードのランニングの推進期における地面反力のピークは歩行に比べて2-4倍大きい。したがって、筋の努力に対する相応した影響で、足指の屈筋力とのバランスをとることは、ランニングではより大きくなければならない。第二に、歩行では負荷のいくらかは反対足にかかるのに対して、立脚期の前足部は支持脚の足底が唯一の接点である。したがって、足指の屈筋の出力は推進期の間中、維持されなければならない。これらの筋はより大きな地面反力に打ち勝ち、滞空期の開始に備えて必要な挙上運動を生み出すために足関節の底屈を助けるかもしれない。
検証する仮説
我々は、短い指骨のヒトは二足移動の立脚期いおける足指の屈筋の機械的出力を減少させるという仮説を検証するために、つま先長が正常な範囲内のヒトサンプルにおける力と足圧データと行った運動学的な手法を用いた。
仮説1:指骨長は立脚期における足指の屈筋の出力と有意に関連する。具体的には、歩行とランニングの両方で、最大屈筋力、屈筋の力積、総機械的仕事量はつま先の長い人で値がより大きくなることが予想される。
仮説2:仮説1の当然の結果として、つま先の長い不利益がランニングで最も大きいならば、指骨長の機械的出力に対する効果は歩行より、ランニングにおいて大きいと予測される。
方法
被験者は25名(男性12名、女性13名)。平均年齢は平均22.8±5.2歳(18-38歳)、平均体重は72.5±1.5kg(54-118kg)、平均身長は171.9±10.6cm(157-191cm)。過去6ヶ月以内に下肢の疾患のないものとした。ハーバード大学とマサチューセッツ大の倫理委員会の承認を得て、被験者には研究参加の同意を書面で得た。
実験装置
被験者は各自の至適な速度での歩行とランニングを2セットずつ実施した。1セットは、足圧計を用いた。サンプリング周波数は歩行100Hz、ランニング400Hzであった(RSScan International, Olen, Belgium, 2m×0.4m ×0.02m, 4 sensors cm–2)。足圧計は25mの歩行路の中央に配置した。もう1セットは 床反力計を用いた。サンプリング周波数は1000Hz(AMTI, 1.2m×0.6m) 。セットの順番はランダムに行った。それぞれのセットにおいて、最低3回の立脚期を計測し、平均を求めた。
運動学的データはいずれのセットでハイスピードカメラを用いて収集した。サンプリング周波数は200Hzであった。床反力計、足圧計との同期はソフトウエアでの電気信号を用いた。キネマティックシステムは床反力セットと足圧セットの間で再度キャリブレーションを実施した。そのため、原点は床反力計では左後方の角に、足圧計では左後方の圧力センサーに設定した。反射マーカーは、左脚の大転子、大腿骨頭、内・外果、第一MTP関節の内側、母趾と第3趾の爪の自由縁に貼付けた。
データ分析
床反力と圧力の生データとキネマティックデータはMatLabで自動処理された。床反力とキネマティックデータはカットオフ周波数100Hzと10HzでローパスのButterworthフィルターを用いて処理された。キネマティックデータは、推定母趾長から立脚期中のセグメントと関節角度と角速度が算出された。デジタルキャリパーで直接計測した値とキネマティックデータで算出した母趾長は一致していた(R=0.84)。本研究では、外側の足指の長さが静的に母趾長と同等と仮定し、母趾長を標準的なつま先の長さとして定義した(以下、つま先長とする)。床反力セットの中で、立脚期は床反力の垂直成分の値が5Nを超えたポイントを見つけることによって、算出された。足圧セットでは、少なくとも1つの圧力センサーが反応した全てのフレームを立脚期とした。全てのデータはつま先とMTP関節の外的な力とモーメントを得るために、簡略化されたインバースダイナミクス法を用いて結合された。
MTP関節モーメントの計算
我々の分析では、立脚期におけるつま先セグメントの正味の角加速度と加速度は無視できると仮定した。言い換えると湯地面反力による背屈モーメントは足指屈筋群の収縮による、伸展モーメントと釣り合っている。同様に、つま先部分(例えば地面反力、屈筋腱力)に作用している外的な力から生じている正味の力は、内的な指骨の力とストレスで相殺されるとした(Fig.1;Fres)。MTP関節に作用する地面反力による背屈モーメントは、床反力セットと足圧セットではやや異なる方法で算出した。
床反力データ
床反力計は立脚期中の三次元的な地面反力が計測できる。しかし、それは圧力中心(COP)として知られている一点に適用された合力である。したがって、これらの試行では、指骨は第1・5MTP関節と第1・3末節骨の反射マーカーから成る多角形(Fig.2A)で、一つの解剖学的な単位(forefoot)としてモデル化された。第1・5MTP関節のマーカーを通る横軸は一つのヒンジのようなMTP軸としてみなされた。COPは運動学座標系に変換された。そして、横のMTP軸からのCOPへの垂線はMTP軸のモーメントとモーメントアームを推定するのに用いられた。この方法はtoe-out angleの被験者間の変動を考慮して、立脚中期の足部の長軸身体の進行方向へ線の間の角度と定義された。地面反力モーメントは地面反力の水平成分とload arm(COP load armと交差する点における横のMTP軸の上昇分)の垂直成分、地面反力の垂直成分とload armの水平成分を合計して得られた。COPがMTP横軸に最も近いとき、外的モーメントを除外した。そのようなモーメントは技術的に、MTP関節を屈曲させるが、足底面とつま先は地面に支えられているので本当の意味での屈曲運動ではない。
足圧データ
足圧計は地面反力の垂直成分しか計測できないが、この力は複数の解剖学的部位に分けられることができる。そして、荷重の分布とモーメントのより正確な測定が足の個々のゾーンに作用しているのが把握できる。ここでは、つま先の指骨の部分を、MatLabを用いて得られた最大足圧値に基づいて2つに分けた(Fig.2B):一つは母趾だけ、もう一つは4つの足指の部分をカバーしている。外側のつま先は圧力分布の変動が大きい第2趾〜5趾の部分が含まれる。足圧計の合計値は、床反力試行の地面反力の垂直成分の平均値を使ってキャリブレーションした。さらに、ゾーンの中で作動する圧力センサーから、単位時間当たりに調整された力を合計することによって、つま先部分の合力が得られた。
各々のゾーンのCOPは以下のように算出された:それぞれの圧力センサーの既知の場所に基づいて、圧力データは各々のセンサーから、左(前後(AP)軸まわりのモーメント)と圧力計の一番下の境界(内外側(ML)軸のまわりのモーメント)から既知の距離で発生する2つのモーメントを計算するのに用いることができた。所定のゾーンでの各々のセンサーによる両方のモーメントが加えられ、ゾーンごとの合計AP・MLモーメントが算出された。それから、そのゾーンでのCOPを求めるめ、ML・ AP座標を見つけるために、ゾーンの合計力合計AP・MLモーメントは分けられた。母趾とつま先外側のMTP関節の地面反力に対するload armはCOPからMTP横軸に垂線を引いて算出された。地面反力の伸展モーメントは地面反力の垂直成分に基づいて上記のように計算された。
屈筋力と仕事量
MTP関節で観察された伸展モーメントと釣り合うことが求められる足指の屈筋力は、以下の式で算出された(P716の(1
))MmuscleがMTP関節(床反力による伸展モーメントと等しい)の正味の筋モーメントで、Fmuscleは足指の屈筋力、そ
床反力試行のために、’forefoot’の足指屈筋群のレバーアームは、キャリパーで計測した第一中足骨頭の高さを半分にして算出した。この測定は、床反力の実験の前に、足部を安静にして、5回行い、平均を求めた。同様のアーム長が、足圧試行で母趾屈筋に使われた。母趾のアーム長を0.77倍し、外側の趾屈筋のためのアーム長は得られた。これは、今回とは無関係な研究(C.Rolianが執筆中の原稿)で集められた206名の被験者で測られた第1~3の中足骨頭の大きさの比率と同じである。本当の筋のアーム長は立脚期の間で多分変わるだろうが、それらは個人間で似たように変化するはずである。したがって、各々個人の平均的アーム長を用いることは、屈筋力の変化と指骨長の変化の関係の調査にあまり有意な影響を及ぼすべきではない。それから、接地の間の足指の屈筋力は積分され、屈筋の力積を計算するために用いられた(P761.(2))。
足指の屈筋によって供給される単位時間あたりの関節パワー(Pmusc)は、単位がワットで、以下の式を使用して得られた(P761(3))。Mmuscleは筋の屈曲モーメント、ωは関節の角速度である。足指の屈筋群正味の仕事は単位がジュールで、立脚期の間の単位時間あたりのパワーの積分値である(P762(4))。
MTP関節に対する正と負の仕事は、それぞれのパワー曲線の正と負の部分を積分することによって得られた。最後に、すべてのデータは、0%から100%の接地時間で立脚期を正規化することで、個人間で比較可能になった。
統計処理
locomotorのバイオメカニクスにおいて、機械的出力の変動は体重、下肢長、足長のような形態的な変数、至適速度または走り方(例えば中足部着地vs前足部着地)のような歩行・走行の変数を含む個人の特性によってしばしば影響される。
これらの要因は、本研究で選択された機械的パフォーマンスの基準に対するつま先長の影響を複雑にさせてしまう。本研究では、形態的および歩行・走行の交絡因子の潜在的影響を制御することで、つま先長と屈筋力の変動の間の線形関係の強度を計るために、偏相関を用いた。仮説1はつま先長と、バイオメカニクス的変数の間での偏相関を計算することによって、歩行とランニングでそれぞれ検証された。その一方で、バイオメカニクス的変数の4つの共変量(体重、接地時間、つま先の接地時間、つま先角)の影響は制御した。体重は地面反力と強く相関しているため、指骨の荷重に影響する。我々は移動速度の代用として、これも地面反力の大きさに影響する、接地時間を使った。接地時間は移動速度に強く相関している。(このサンプルでは、歩行:R2=0.67、ランニング:=0.74) しかし、より重要なことに、フルード数や占有率のような他の速度の計測と違って、ある区間集積される力積と仕事量のような変数と、より強く相関しているかもしれない。接地パターン(同じような接地時間の二人がいたとして、一人はつま先接地だと、立脚期の指骨への荷重は100%費やされる)によって個人差が出てくる、つま先接地時間は全身のCOPがMTP関節よりも前方にある時間を測る。最後に、立脚期のつま先角は、回旋を増やすことでより内側に荷重されるCOPの軌道に影響するので、4つに含まれる。仮説2は歩行とランニングにおいて、つま先長と機械的変数の間の偏相関の強さを比較することによって、質的に評価された。
屈筋力におけるつま先長の影響の予測:重回帰分析
偏相関を補うものとして、従属変数の上で一つの独立変数の影響を予測するために、重回帰分析を使用した。具体的には、屈筋力の変数を、5つの独立変数に対して回帰した。そして、つま先長の違いによる屈筋の機械的出力に対する影響を予測するために、その一方で他の4つの共変量(体重など)を固定して一定に保った、回帰式を用いた。我々は異なるやり方で、足指の屈筋力と仕事の産生に関してつま先長の変化だけの影響を予測するために、サンプルの平均値(体重、接地時間、つま先角)とサンプルで計測されたレンジ内でのつま先長(Table.2)を持つ個人を仮定して作り出した。この分析は、歩行とランニングにおける床反力計測と足圧計測で別々に行った。すべての統計分析は、Statistica(ver6.1)で実行された。
結果
独立変数
5つの独立変数の平均値と標準偏差とレンジ、身体重心の速度(立脚期における股関節マーカーの水平移動距離によって求められる)はTable.2に示された。この値は、足圧試行との間に有意な違いがないため、床反力試行のものだけである。歩行とランニングの速度と接地時間には有意な違いがあった(P<0.05)。しかし、つま先角の違いはなかった。独立変数の2つのペアだけに相関があった(Table.3)。両方のケースにおいて、相関係数は総じて低く、決定係数は25%であり、独立変数の間の共直線性は全体的に低かった。
従属変数
床反力と足圧試行における従属変数のサンプルの平均、標準偏差、レンジがTable.4に示された。標準偏差とレンジは、屈筋の機械的変数が大きく変動することを示唆していた。予想されたように、推進期の間の、足指屈筋群の制動的役割を反映しているので、負の仕事は全ての試行で正の仕事よりも有意に大きかった。
床反力試行の歩行からランニングで、最大屈筋力と負の仕事の有意な増加がみられたが、屈筋の力積と正の仕事にはなかった。足指の屈筋の力積は歩行からランニングに移行すると、ランニングでは有意に大きくなるにも関わらず、より短い接地時間での積分になるために、減少した。足圧試行では、歩行とランニングの従属変数における違いは、床反力試行と同様であった。しかし、母趾では、歩行での母趾屈筋力の大きな変動のために、歩行とランニングでの正の仕事だけが増加した。つま先外側の機械的出力の変動も、歩行とランニングで大きかった。歩行からランニングへの移行に関連する、機械的変数の大きさが有意に全て増加した。
つま先長と従属変数の関係
我々の仮説では、体重、接地時間、つま先角をコントロールした後、つま先長が個人間の機械的出力変数の観察された変動において、重要な部分を占めていると考えられた(Table.4)。偏相関の結果がTable.5に示された。至適速度の歩行では、偏相関のデータは、相対的つま先長の増加が機械的出力変数に影響しないことを示している。しかしながらランニングでは、床反力データに基づいた機械的出力とつま先長の間の偏相関は、全て有意に高かった。言い換えれば、ランニングでは、体重、接地時間、つま先角の影響を取り除いた後、つま先長が増加して、屈筋力、力積、機械的仕事は大きさが増加する。これらのデータは、つま先長がランニングにおいて、足指の屈筋の機械的出力の大きさに直接的な影響を及ぼすことを、示している。さらに、つま先長と機械的出力の間の偏相関はランニングにおいて有意なだけであるが、長いつま先の屈筋の機械的出力に対する影響が、歩行よりランニングにおいて大きいという我々の予測を、データは間接的に支持する。
足圧データは床反力データと一致している。母趾では、つま先長が増加して母趾屈筋の出力が増加するので、つま先長と屈筋の力積、正と負の仕事との間の偏相関はランニングにおいて有意であった。外側のつま先では、歩行において、従属変数とつま先長の間に有意な関係はなかった。しかしながら、ランニングではつま先長と機械的出力変数(例えば、力積、最大筋力、負の仕事:Table.5を見て)の間で統計的には有意でないが傾向がみられた。つま先長による統計的に有意な相関関係が無かったのは、歩行・走行において、屈筋力と内的な力の非常に大きな変動によるかもしれない。
屈筋力におけるつま先長の予測された影響
偏相関データは長いつま先が屈筋の機械的出力を増加させるという仮説を支持する(Table.5)。しかしながら、後者は共変量の影響を取り除いた後の相関関係であるので、機械的コストの実際の増大は偏相関を使って直接予測されることができない。その代わりに、つま先長の屈筋の機械的出力に対する影響は、重回帰分析を使用して、さらに定量化された。歩行ではバイオメカニクス的変数は何も相関が無かった(Table.5)ので、ランニング中のデータだけが報告された。床反力データの従属変数によって予測された値がTable6に示された。予測値は、他の全てと等しく、相対的なつま先長が短いサンプルよりも約40%長い、長いつま先を持つ仮想の人は、立脚期の間、MTP関節を安定させるために、ほとんど2倍の機械的仕事を行い、短いつま先の人より2.5倍大きい屈筋の力積を発揮する。母趾と外側のつま先に分割された、足圧試行の推定値はTable7に示された。特に、外側のつま先では、低い相関係数(Table.5)のために、信頼限界がより大きいことに注意すべきである。それにもかかわらず、長いつま先を持つ仮想の人は、母趾屈筋力の変数が2–3倍大きいことが示された。外側のつま先において、短いつま先と長いつま先の人の間での推定された屈筋力の違いはさらに大きく、4–6倍であった(Table7)。
考察
本研究は、立脚期における足指の屈筋力と機械的仕事を減らすことによって、移動に関するパフォーマンスを向上させることに、人のより短いつま先が貢献する、という仮説を検証した。体重、接地時間、つま先角度の影響をコントロールした後に、相対的につま先の長い人は、より大きな足指の屈筋力と内的な指骨の力を示すと予測した(仮説1)また、長いつま先に関連した足指の屈筋力の増加はランニングで相対的に大きくなると予測した(仮説2)。
ランニング試行の結果は仮説1を支持する。床反力試行では、つま先は’forefoot’として一つのユニットとして扱ったが、つま先の長い人はMTP関節を安定させ、身体重心の前方移動を制御するために、より多くの機械的仕事をすることが示唆され、屈筋力変数は指骨の長さに有意に相関した。足圧試行は床反力試行と一致していて、仮説1を支持した。
母趾において、つま先長は屈筋の力積と機械的仕事に有意に相関していた。外側のつま先では、屈筋力変数が母趾と似たような傾向を示したが、あまり強くつま先長とは相関していなかった。post hoc検定によれば、有意な相関の欠如は、少ないサンプルサイズが原因であると示している:算出された相関関係(Table5)に基づいて、サンプルサイズが35から55名であれば、十分なパワー(0.8)が提供された。床反力と足圧試行における、屈筋力へのつま先長の影響はランニングでのみ有意であったが、仮説2は間接的に支持された。
大部分の偏相関データがランニングにおいて有意であったが、指骨の長さの屈筋のメカニクスに対する影響はまだ控え目である。他の共変量の影響を固定した、つま先長の変動による屈筋力の全体的な変動は、forefoot lengthと残りの従属変数の間で二乗半偏相関(決定係数)によって与えられる。床反力試行ではこの値は13.5%(屈筋の力積)から17%(負の仕事)のレンジである。今回は、屈筋力において重要な要因となる変数を残して、体重や接地時間といった他の要因や、測定誤差や、足部への荷重に影響する歩行・走行のキネマティクスの変数を含む追加の要因は本研究では計測されていない。
歩行・走行の変数は、本研究では重大な問題である。足圧試行による屈筋力データは、歩行における母趾と外側のつま先での最小値はゼロであり、ランニングでは外側のつま先の最小値がゼロと、大きな変動が見られた(Table4)。言い換えれば、被験者の何人か(つま先が長い人、短い人両方)はどちらの動作においても立脚期につま先の外側に荷重がなかった。指骨荷重におけるこの変化の大きさは、個人間の動作の違いに関係していると考えられた。例えば、より長い下肢や垂直な体幹は、中足骨頭に相対的により荷重がかかり、外側のつま先の荷重を取り除くいて、MTP関節に身体重心をより近づけるかもしれない。全身のキネマティクスにおけるより多くのデータは、動作と指骨荷重の関係を明らかにするために必要である。屈筋力の変化は、習慣的に靴を履いて歩行やランニングをしている被験者を対象としたことに関連していることも考えられた。指骨のバイオメカニクスにおける今後の研究では、より一様につま先に荷重するかもしれない、裸足族の中から大きなサンプルを用いなければならない。
これらの研究の限界にも関わらず、より短いつま先は、ランニング中の足指屈筋の力産生と機械的仕事を減らすことをデータは示している。つま先の機能に置ける我々のモデル(Fig1)では、短いつま先が二足歩行・走行の間、足指屈筋力を発揮するための代謝コストを最終的に下げることを、さらに提案した。機械的仕事と筋の力発揮における代謝コストは複雑で、筋腱の構造や筋繊維タイプ、収縮速度といった要因に依存している。そのため、つま先の長い人の屈筋力の増加と関連した代謝コストの増大が、筋/腱の弾性エネルギーの能力または個人間の収縮速度の違いで、ある程度相殺されるという可能性を、我々は除外することができない。
それでもまだ、体重と接地時間のような要因が一定の状態に保持される時、相対的につま先の長い人がつま先の短い人より、2~4倍より大きな足指の屈筋力と機械的仕事を要することを、重回帰データは示す(Tables6と7)。こうした状況下において、屈筋力の増加が、少なくとも足指の屈筋力産生の代謝コストの小さな増大につながることは、少し関係がありそうである。また、片脚の立脚期において、つま先長の屈筋力に対する影響を推定したのを思い出すことは、重要だ。したがって、個人のランニングのレンジ内で考えると、長いつま先は、機械的仕事と、たとえ増加が比較的小さいとしても、代謝コストにさらに大きな影響を及ぼすかもしれない。たとえば、3.8m毎秒の速度で、トレーニングしているランナーの平均ストライド長は1.3メートルで、1キロ当たりおよそ385歩だ。このステップ頻度で、指骨長さの屈筋力生産の代謝費用に対する影響は、進む距離によって多分増すだろう。そして、潜在的に、移動の総代謝コストを下げることに貢献する。
最後に、機械的・代謝コストだけがより短いつま先の利点でないかもしれないと、我々の分析は示唆する。具体的には、短いつま先が、ランニング中の足部と足指の屈筋群に関する、慢性障害と外傷(特にオーバーユースによる障害で)の危険性を減らすことに貢献もするかもしれないことを、屈筋力と仕事のデータは示唆する。たとえば、つま先が長時間、周期的に荷重される状況(例えばマラソンの間)では、より長いつま先に関連する2~4倍大きな筋腱の張力は、筋疲労の発症を速めるかもしれない。特に足指の屈筋の疲労は、中足骨圧力骨折の既知の危険因子として知られている、中足骨頭の真下への荷重のシフトと関係している。
つま先の長い人のより大きな屈筋張力と力積は、磨耗と断裂のダメージも足指の屈筋腱に増やすかもしれない。立脚期の足指屈筋腱への最大ストレスは腱不全の原因となる最終的な張力につながるだろうが、反復的な屍体の研究では、繰り返しの荷重によるマイクロトラウマが、最終的な腱断裂の原因となり、腱の疲労寿命(断裂までの繰り返し回数)を、ストレス適応の機能として、減少させる。つま先の長い人で観察される、屈筋の大きな腱張力は、より大きな腱ストレスと関係しているかもしれない。せいぜい、そのようなストレスは、より頻繁な修復を必要とする。最悪の場合、特に荷重の頻度と期間が生体内での腱の修復能力を上回ると、腱ストレスの予想された増加は屈筋の疲労寿命を短くし、断裂の危険性を増す。この文脈において、ヒトの屈筋裂離骨折と腱不全のほとんどの報告された症例は、軍隊の行進とマラソンのような、長いウォーキングとランニングで発生した点に注目することは、興味深い。
ヒトの進化との関わり
母趾と、いくらかは外側のつま先で、より長い足の指骨が持つことが、ランニングで足指の屈筋張力と仕事を増やし、オーバーユース障害のリスクを増加させることに関与するかもしれないことを、データは示唆する。毎日長距離を走らず、いつも靴を履いた現代の人間には、これらの影響にはおそらく取るに足りない健康への関心事であるが、人間の進化の過程では、指骨のサイズと形にみられた変化は、選択的な圧力を負わせるのには十分に、重要であったかもしれない。たとえば、A.afarensisの外側の趾骨はアフリカの大型類人猿より短いが、現人類よりおよそ40%長く、よりカーブしていたことを、ハダー(エチオピア)で修復された360万年前の部分的な足の化石は、示唆する(Table1)。
この中間的な趾骨の形状は、樹上での生活と許容的な地上での二足歩行の、入り混じった行動のレパートリーを反映していると、考えられる。この足形態がアウストラロピテクスの効率的な二足歩行ができず、、立脚期の終わりにつま先を地面から離すために、エネルギーが浪費される’high-stepping’歩行だったことが示唆された。
長い外側のつま先は、これらの初期のhomininsで歩行の運動学に影響を及ぼしたかもしれない、しかし、彼らの長い外側のつま先が歩行中、屈筋張力にほとんど影響を及ぼさなかったことを、我々の現代人のデータは示す。しかし、アウストラロピテクスの長い外側のつま先が、ランニングのパフォーマンスに悪影響を与えていたことを、データは示唆する。ランニングのつま先長と屈筋バイオメカニクスの間の相関関係は、外側のつま先ではわずかに有意なだけだったが、重回帰分析は、現代人のつま先が平均よりわずか20%長いと(84vs69mmの母趾長;Table2)、ほぼ二倍大きなピーク張力と力積を必要とすることを示した(Table7)。推定によって、afarensisのような40%長い外側のつま先をもつ現代人は、現人類の母趾の出力に相当する、平均よりほぼ3倍大きなの足指の屈筋張力、力積と仕事を必要とする(Fig.3)。
たとえA.afarensisが小さな背丈で、現人類のようにならなかったとしても、A.afarensisの長い外側のつま先がランニングの立脚期の間、かなり大きな屈筋張力の産生を要していたことを、重回帰のデータは示唆する。特に、これらのhomininsが生息地を広げるために、食物パッチの間でより広い範囲をカバーするために潜在的に走ることで、鮮新世の生活の断片化が増加した文脈の中で、より大きな張力を生み出すことに関連した代謝コストの増加は、特にアウストラロピテクスのフィットネスに影響を及ぼすことができた。短い外側のつま先の猿人は、明らかにポジティブなフィットネスへの結果として、代謝コストを下げるか、下肢の筋疲労を遅らせることがより可能であった。
このように、自然淘汰は鮮新世のアウストラロピテクスで、外側のつま先長を短くすることをすでに支持していたかもしれない。
残念なことに、初期のヒトの趾骨の化石がないため、つま先の形態が、いつアウストラロピテクスのより長い、曲がった趾骨から、現人類のユニークに短い外側の趾骨に変わったのか、不明である。
しかし、およそ200万年前に最初に現れたヒトの骨格的な適応は、半樹上生活の、類人猿のような種から、定期的に持久的ランニングができる二足動物への完全なる進化の文脈の中で、進化的な移行が生じたことが、最近示唆された。この研究の結果はこの仮説と一致している。そして、短いつま先がおよそ200万年前にヒト属で進化した、持久的ランニングのための形態的・行動的セットの一部であることを示唆する。